パージ(2013)

:この記事にはネタバレを含みます。

出典:映画.com



先日観たベイビー・ドライバーの話で盛り上がった友人から勧められた、2013年のアメリカのホラー映画「パージ」。
日本では2015年に公開され、その後2作続編も出ている模様。
アメリカ本国ではシリーズ4作目となる最新作も今夏公開されたようですが、日本での上映は今のところ決まっていないようです。

原題は「The Purge」で、意味はそのまま「浄化」。
近未来2022年のアメリカを舞台としており、1年に1回、殺人を含む全ての犯罪が合法化される夜が法律で設けられているという設定です。
それをパージと呼び、19時から翌7時の間の12時間、警察や消防、病院なども全て停止し、いわばなにをやっても合法な時間が訪れます。
このパージのお蔭で、犯罪率、失業率共に1%にまで低下し、経済も活性化されているのだとか。
この映画では、その1年に1度のパージの夜12時間が描かれています。

映画の中で描かれる家族の父ジェームズは、パージから守る為のセキュリティシステムを販売する会社の営業。
自宅近所の家全てに自社のセキュリティシステムを売り込み、ここ10年で家の家賃でカツカツだった状況から一転、ヨットを購入するほどの富裕層にまで上り詰めました。

そんなジェームズには妻で専業主婦のメアリーと、ゾーイとチャーリーという2人の子どもがいます。
娘のゾーイには年上の彼氏がいるものの、ジェームズは「年が離れすぎているから」と認めておらず、親子関係はイマイチ。

パージの夜、一家は一室に集まり、自慢の自社セキュリティシステムを作動させ、自分たちの身の安全を確保。
家族はそれぞれ好きなことをして過ごします。

しかし息子のチャーリーが、室外に向けて設置されている監視カメラの映像から助けを求めている一人のホームレスの男を発見。
パージが始まる前からなぜ人を殺さなければならないのか、殺されなければならないのか、とパージそのものに疑問を呈していた彼は、セキュリティシステムを解除し、ホームレスの男を家に招き入れてしまいます。

時を同じくして、娘のゾーイの元に年上の彼氏ヘンリーが登場します。
どうやらセキュリティシステムを作動させる前にゾーイたちの家に忍び込んでいた模様。
その目的はずっと認めてくれない父ジェームズと話をつけるということでした。
ゾーイは阻止しようとしましたが、結局ヘンリーは一人でジェームズの元へ向かいます。

セキュリティシステムが解除されたことに気づき慌てて出てきたジェームズとメアリーは、玄関から入ってきたホームレスの男と対面。
ジェームズは咄嗟に拳銃を取り出し発砲しようとしたところ、話をしに来たはずのヘンリーがジェームズに向かって発砲します。
驚いたジェームズは銃口をホームレスの男からヘンリーへ向け発砲。ヘンリーは被弾し亡くなってしまいます。
この隙にホームレスの男は家の中を逃走。

安心安全のセキュリティシステムに守られた家から一転、大変なこととなります。

チャーリーが匿ったホームレスの男は、パージャーと呼ばれる富裕層たちが狙う獲物でした。
ホームレスの男がなにをしたというわけではなく、貧困層を消し去って、より自分たちに良い国家を作ろうという集団です。

そのパージャーのリーダー格の男が、ジェームズに取引を持ちかけます。
ホームレスの男を生きたままパージャーに渡せばジェームズを含む家族には手は出さない、しかしパージャーがセキュリティシステムを強行突破する準備が整うまでにホームレスの男を引き渡すことができなかったら皆殺しにする、と。

ジェームズはパージを肯定も否定もしていませんが、ホームレスの男の命と自分を含めた家族の命、この2つを天秤にかけたときどちらが重要かは考えるまでもありませんよね。
2つ返事でジェームズはこの取引を飲みますが、パージャーたちも自らの「狩り」を邪魔されているので、そんなに優しくはありません。
家の電源を落としてしまいました。

真っ暗闇と化した家の中を、ジェームズ、メアリーはホームレスの男を探します。
しかし、パージに否定的なチャーリーは、ホームレスの男が捕まらないよう手助けをして鬼ごっこ状態。
一時はホームレスの男を匿うことに成功しましたが、なにも知らないゾーイがホームレスの男に捕まってしまい、人質に取られてしまいます。

ゾーイを助けるべく交渉するジェームズですが、事態は膠着状態に。
そこへメアリーが背後から近寄り発砲。
ホームレスの男は倒れ、ゾーイも頭を打って失神。

この辺りのシーンがどういう意図があるのか、なにが起きたのか分かりづらいカメラワークと編集になっている点が気になりました。

ホームレスの男を取り押さえ、ダクトテープでぐるぐる巻きにし、パージャー達に差し出そうとするジェームズとメアリーですが、半ば拷問のようなことを平然とやってのけるジェームズに、チャーリー、メアリー、ゾーイは「間違っている」と言って離れて行ってしまいます。
途中までは激しく抵抗するホームレスの男でしたが、ジェームズの家族を守ろうとする思いと、それに反して離れて行ってしまうメアリーたちを見てか、自ら一人で出ていくことをジェームズに提案します。

しかしジェームズはメアリーたちに間違っていると言われたことで、ホームレスの男の提案を拒否し、セキュリティシステムを強行突破して攻め入ってくるパージャー達と戦うことを選択します。

ヘンリーを殺してしまったことを後悔していたジェームズとは一転し、セキュリティシステムを突破し攻め入って来たパージャー達には容赦しません。
スーツで決めてパナメーラをドライブしていたジェームズからは想像できないほど、的確にパージャー達を撃ち抜いて行きます。

急に、映画変わったのかな?と思うほど。
激しい乱闘を重ね、パージャー達の頭を掴んでテーブルに叩きつけたり、パージャーの持っていた斧を振り回したり、完全にアクション映画です。
死体撃ちをするシーンは流石に笑ってしまいました。このジェームズ誰…。

それだけ家族を守ろうとする強い意志や執念を表現しようとしているのかもしれませんが、前半との豹変ぶりについていけず、パージャーが突入して来てからはホラー映画っぽさも薄れてしまい、ちょっと残念。
気がついたら白T一枚だし。

しかし扉から出る瞬間に、リーダー格のパージャーにナイフで刺されてしまいます。

幸いその場では大事には至らなかったものの、苦しんでいるジェームズをメアリーが発見。寄り添ってチャーリーも呼び寄せます。
その声を聞いたのか否か再びリーダー格のパージャーが登場。
ショットガンで家族3人を狙っているところ、背後から射殺されます。撃ったのはゾーイ。

慌ててジェームズに寄り添い、謝るゾーイ。
妻と2人の子どもに見守られながらジェームズは息を引き取ります。
主人公死んじゃったよ…。

悲しみに暮れる3人の元へ、ジェームズが生前セキュリティシステムを売り込んだご近所さんたちが登場。
メアリー、ゾーイ、チャーリーを縛り上げ、殺そうとします。

どうやらジェームズのセキュリティシステムの売上のお陰で裕福な生活を送っているメアリー達がずっと気に食わなかったようで、パージを利用して殺そうと企んでいた模様。
ご近所さんのうちの一人がメアリーにナイフを突き刺そうとした瞬間、別のご近所さんの男性が銃弾を浴びます。

そう、あのホームレスの男です。
結果としてパージャー達から匿ってくれたお礼なのか、ジェームズの「家族を守りたい」という気持ちを引き継いでのことなのか、メアリー達家族を守ってくれました。

メアリー達は拘束を解かれ、死を覚悟するご近所さん御一行。
ホームレスの男はメアリーに発砲の許可を請いましたが、メアリーはNO。
色々な思いはあるのでしょうが、「誰も死なずに朝を迎える」ことを選択しました。

ちなみにご近所さん御一行で唯一撃たれてしまったのは、何を隠そうアジア系男性。
序盤にジェームズにちょろっと挨拶する件があるのですが、なんとなくこの人死にそうだなあと思ってたら案の定。
アメリカ映画に出てくるアジア系ってだいたい死にますよね。

最後の最後、パージが終わる直前にご近所さんのうちの一人がメアリーに向かって拳銃を向けましたが、メアリーが頭を掴んでテーブルに叩きつけて怒鳴ります。
最後でメアリーも急変してびっくり。この描写別にいらないんじゃないかとも思いましたけどどうなんでしょう。

そして午前7時、サイレンが鳴ってパージが終了しました。
「私の家から出ていって」というメアリーの言葉で、ご近所さん達は各々の自宅へ帰り、ホームレスの男も家を去りました。

ここらで「よかったら一緒に住まない?」くらいアメリカ映画ならあるかなと思ったのですが、軽くメアリーが感謝の言葉を述べるとホームレスの男はそのまま去って行ってしまいました。

ボロボロになった家と死体だらけの庭を眺めるメアリー、ゾーイ、チャーリーの後ろ姿が流れ、そのままエンドロール。誰も救われない。



さて、途中まで書いてこんなに事細かに内容を文章化する必要があったのか私自身疑問に思う部分もありましたが、せっかく書いてしまったのでよかったら読んでください。

勧めてくれた友人は「胸糞映画だよ」という節を予め教えてくれたのですが、その通りでした。
上映時間が85分と、まあよくあるホラー映画かなという感じで見始めたのですが、終盤以降誰も救われない、誰も幸せにならない、なんなら主人公死んじゃうという稀に見るバッドエンドで驚きました。
特に「その後」みたいな描写もなく、ただただ死体だらけの庭を見て途方に暮れるといったオチは、逆に最後まで筋を通していて良いのかな、とも。

事の発端は、チャーリーがホームレスの男を助けたことなんですが、これが間違っているとも言えないですよね。
あくまでただのホラー映画なんで、命の重みとか語るつもりはさらさらないですけど、チャーリーの命に対する考え方というのはなにか訴えてくるものもあります。
パージそのものに疑問を持っていますからね。
特にこの映画で描かれているパージは、貧困を淘汰するために貧困層を「狩る」というのが目的なようですから。

あんまり変なことは言えないですけど、アメリカで貧困層による犯罪が多いのは事実ですし、貧困=職がない=あってもろくな仕事じゃない=続かない=離職率の増加という捉え方もできますし、映画を通してなんとなく言わんとしていることがあるような気もしますけどね。
劇中でもジェームズとメアリーが、パージによってアメリカは良くなった、若いチャーリーは昔のアメリカを知らないから理解できないだけ、といった内容を話すシーンもあります。

映画自体は、暗くて閉鎖された空間の中で敵を探しながら戦うというホラー映画の基本のようなシチュエーションで、序盤~中盤は緊張感もあって楽しく見れます。
いきなりドーンみたいな感じのシーンは少ないので、割と安心して見れるかも?
終盤はホラー要素は著しく減って半ばアクション映画のアクションシーンを見ているかのよう。
テンポは良いのですが、せっかく前半は良い世界感を作っているだけに少し残念かなとも思います。

批評では、ジェームズ以外の家族がクソ、家族守るやろ普通、みたいな意見も多くあまり評価は高くないようですが、そういった人的災害的な部分も込みでホラー映画って成立してるんじゃないのかなと私は思うので、パージは十分楽しめました。

なにより国を良くするために1年に1回国民同士で殺し合いをさせるというストーリー自体が面白いです。よく思いつきますよねこんなの。
一応レベル4以上の武器は使用禁止というルールもあるようでした。レベル4がなんなのかは知りませんが。

ただまあパージによって犯罪率は1%らしいですが、パージの夜にこれだけの犯罪が起きているならば、結果としてパージを設ける前の犯罪率と同等か若しくはそれ以上なんじゃないか、なんて野暮なことを思いましたけどね。

むしろいかなる理由があっても人を殺してはいけないというのが現在の先進国のスタンダードだと思うんですが、パージがあることによって1年我慢すればあいつを殺せるという思考の人間ばかりになってしまいますよね。
毎日生きてれば、殺してえなあと思う人1人や2人はいるでしょう。

あくまでの映画の中のフィクション設定にこんな考察しても…と思われるかもしれませんが、現に劇中でも描かれていますよね。
ご近所さん達は、ジェームズ一家に嫌がらせをされたわけでもないのに、わざわざ殺しに来ました。
なんならジェームズが売り込んだセキュリティシステムのお陰で、自分たちは襲われずに済んでいます。
単に「ちょっと金持ってるからってお高くとまりやがって、鼻につくな」程度の僻みでパージを利用して殺そうとしたわけです。
これってめちゃくちゃ怖くないですか。

ここまで深読みして見るような映画じゃないのかもしれませんが、実はただのホラー映画のようでそうじゃないのかもしれません。

出典:みんなの花図鑑




















パージの夜にムラサキセンダイハギを軒先に刺してる家はパージ賛成派なんだとか。お気をつけあれ…。

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